北海道の地質の特徴

北海道は、日本列島の最北に位置することから、本州にくらべて気候が低温です。このため、低温多湿な気候のもとで形成される「泥炭」が低地を中心に広く分布し、人々の生活に関わってきました。また、地質学的には東北日本弧と千島弧の会合部にあたり、火山活動が活発です。このため、「テフラ(火山噴出物)」も多く分布しています。「テフラ」は、工学的には「火山灰質土」に区分されます。ここでは、北海道に特有の特殊土として「泥炭」「火山灰質土」を紹介します。

泥炭

泥炭とは

泥炭は、植物の遺骸が地下水や気温等の環境条件によって未分解のまま堆積したものである。(『ボーリング野帳記入マニュアル H12.9 全国地質調査業協会連合会』より)

一般に、主として湿生植物の遺体が、低温多湿の条件のもとで多年にわたり分解が不充分のまま自然に堆積してできたものを泥炭と呼んでいる。泥炭は、その大半が有機物から成り、植物繊維は互いに交錯して海綿状の組織を形成している。(『泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル H29.3 寒地土木研究所』より)

上記の説明において、「未分解のまま」または「分解が不充分」とはどの程度を指すのか定量的な区分(境界値)は定められていません。

分解度の目安として、地盤材料の工学的分類方法(JGS0051-2009)では、高有機質土(工学的分類記号〔pt〕)は、泥炭(pt)と黒泥(Mk)に分類していますが、「泥炭(pt)は、分解の程度が低くて植物遺体が肉眼的に判定可能であるもの」に対し、「黒泥(Mk)は、分解が進んで植物遺体が肉眼的に判別できないもの」とされています。

泥炭地とは

この泥炭が積み重なった土地を一般的に「泥炭地」といいます。

泥炭地とは、「有機物含有量が50%以上」で「排水後20cm以上の厚さの泥炭で被覆された土地」をさしている。(『泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル H29.3 寒地土木研究所』より)

この「泥炭地」に加えて「有機物含有量が20%以上」の土が表層部に堆積し、その下層に軟弱粘性土を有し、かつ地下水が高い地盤は、建設工事で問題となる地盤であり、これを一般に「泥炭性軟弱地盤」と呼んでいます。北海道では、各地に「泥炭性軟弱地盤」が広がっています。

北海道の泥炭性軟弱地盤分布図(『泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル』より)

泥炭の調査・試験

原位置試験など

せん断強さを推定する場合には、機械式コーン貫入試験または電気式コーン貫入試験が原則的に用いられています。泥炭に対して標準貫入試験を用いても、N値がゼロ(ボーリングロッド、ドライブハンマーの自重による沈下)となる場合が多く、設計定数に換算できる値が得られないことになるからです。

また、泥炭の土相状況の確認には、泥炭などが形成する軟弱地盤だけでなく、その下位に分布する支持層となる砂や砂礫などの確認も含めたボーリング調査を行うのが一般的です。

室内試験など

土粒子の密度試験と含水比試験は普通に行われますが、粒度試験と液性限界・塑性限界試験は、泥炭の分解度によっては行うことができません。特に一軸圧縮試験では、供試体作製時に乱れが生じやすいことや、圧縮過程で多量の間隙水が絞り出されることにより応力-ひずみ曲線に明瞭なピークが現れないなどの問題があります。

このため、設計用のせん断強さを一軸圧縮試験結果から求めることはまれで、原位置におけるサウンディング結果が多く用いられます。(具体的には、非排水せん断強度(Su)を求める方法として、機械式コーン貫入試験の貫入抵抗(qc)や電気式静的コーン貫入試験の水圧で補正された貫入抵抗(qt)を用いるが原則とされています。(Su=1/20*qc、Su=1/20*qt)

圧密試験は、試験時の側方拘束条件が実際の地盤と異なることや、植物繊維自体の変形が無視できないほど大きいことなどから、試験結果の評価や活用には注意が必要です。

泥炭の利用と泥炭地の問題

泥炭は、「ピートモス」として販売されている土壌改良材として用いられることが多い材料です。また、固化材を混ぜて改良し、盛土材料とすることや緑化基盤材として利活用する方法が提案されています。なお、ウイスキーの原料・麦芽を乾燥させる際にも泥炭(=ピート:北海道産ではなく、輸入品が多いようです)を使用する場合があるようです。

関連資料など

泥炭についての工学的な基準書として、国立研究開発法人 土木研究所 寒地土木研究所編『泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル(H29.3)』が標準的に利用されており、ホームページでも公開されています。

上記のマニュアルは、道路の建設・維持管理に主眼をおいていますが、河川部門については、北海道開発局建設部河川工事課編『泥炭性軟弱地盤における柔構造樋門設計マニュアル』や『泥炭性軟弱地盤における柔構造樋門設計マニュアル計算事例』があり、ホームページでも公開されています。

また、「泥炭モノリス」をはじめ泥炭に関する展示物が充実している『泥炭地資料館』を訪ねてみるのもよいでしょう。篠津中央土地改良区(当別町金沢1363番地21)内にあり、訪ねる際には「特定非営利法人 篠津泥炭農地環境保全の会(Tel:0133-23-1903)」への連絡が必要です。

火山灰質土

火山灰質土とは

火山灰や火砕流を起源とする土。(『地盤材料試験の方法と解説』より)

爆発的な火山噴火により放出される個体の破片(火山砕屑物)を総称する用語に「テフラ」があり、火山から流れ出る「溶岩」と区別されています。「溶岩」は、地表やその付近にあるマグマ(どろどろに溶けた状態の岩石)をさす場合と、それが冷えて固まったものをさす場合があります。

つまり、火口から流れ出ているものも、冷え固まったものも、両方とも「溶岩」と呼ばれます。一方、火山砕屑物は、破片の大きさ(粒子の径)により「火山岩塊:>64mm,火山礫:2~64mm,火山灰:<2mm」に区分されます。

北海道では、各地に火山噴出物が分布しています。なお、降下火山噴出物の分布は、偏西風により指向性のある分布になっています。

第四紀火山と火山噴出物の分布(実務者のための火山灰質土より)

火山灰質土の調査・試験

原位置試験など

火山灰質細粒土は、ペッド構造(団粒化)を形成する場合が多く、この内部に多量の水分を保持していることから、見かけ以上の高含水状態や練返しによる大きな強度低下を示すことがあります。サンプリングでは、このペッド構造をできるだけ保ったまま(特性を失わないように)採取するよう留意し、特に高含水比であるため採取量は通用よりも多めにする場合があります。

火山灰質粗粒土は、一般に軽石を多く含み粒子が破砕しやすい性質をもっています。このため、試料の採取・運搬から調整に至るまで、粒度変化が生じないように注意する必要があります。一般的なロータリー式ボーリングでは、コアバレルが回転して掘削・コアリングするため、粒子間や粒子内の間隙に含まれる水分が攪乱・粒子破砕により流出し、泥濘化することがあります。これを避けるため、締まり具合が緩く粒子が脆弱なものに対しては、シンウォールサンプリングを適用することがあります。一方、よく締まっている場合や粒子が固いものに対しては、シュー先行型のスリーブ内蔵型二重管サンプラーや三重管サンプラーを適用します。

また、地下水より浅部の場合には、掘削時に回転させない打ち込み式サンプラーを適用することも可能ですが、打ち込み時に衝撃が発生するため、ある程度の粒子破砕は避けられません。

室内試験など

火山灰質細粒土では、ペッド構造を考慮する必要があります。粒度試験の沈降分析で観察される綿毛構造などが、その代表例といえます。これについては、塩酸による分散が効果的とされていますが、その適用性や工学的意義が明確でないなどの指摘もあります。

火山灰質粗粒土では、粒子間や粒子内の間隙(開口および閉塞)に含まれる水分が、攪乱・破砕により不可逆的に変化することが知られています。締固め試験においては、非乾燥法と非繰り返し法を厳守する必要があります。

火山灰質土の利用と問題

全面積の40%以上が未固結の火山噴出物で覆われている北海道において火山灰質土は、建設工事で遭遇する場合が多い土質です。従前より一般盛土の材料として利用されているほか、透水性に優れている性質を利用した凍上抑制層材や暗渠の埋め戻し材として利用されています。さらに軽鉱物を多く含み密度が小さい場合には、軽量盛土材として利用されています。

火山灰質土では、地震時の液状化・豪雨災害・凍上災害の事例が報告されています。軽量であること、多孔質で高含水状態になりやすいこと、構成粒子が脆弱で施工時の破砕(細粒化・粘土化)を受けやすいことなどの火山灰質土の特性が影響していると考えられています。特に風化した火山灰質土は、トラフィカビリティの確保が難しいことや浸食に弱いことなどより、いわゆる「不良土(地山掘削したままの状態では、盛土等の材料に適さないもの)」に当たる場合があます。この風化火山灰についての判定基準も整理されています。(「北海道における不良土対策マニュアル」 平成25年改訂版)

関連資料など

北海道に分布する火山灰質土について地盤工学的にまとめた文献として、公益法人 地盤工学会 北海道支部編「実務家のための火山灰質土」が刊行されています。