協会の災害対応
近年、異常気象に伴う水害や土砂災害が、全国的に急増しています。『爆弾低気圧』や『線状降水帯』など、これまで馴染みの薄かった気象用語が頻繁に使われるようになってきました。今後、このような気象現象による災害がますます激化する恐れがあり、災害への緊急対応の必要性・重要性が大いに高まっています。
当協会では、不測の災害に対して強力な支援体制を整えるべく、常日頃より会員企業との連携維持に努力しています。また、以下の事例に示しますように、有事の際にはいち早く災害の最前線に赴き、社会インフラの復旧に大きく貢献しています。
(1)国道453号 支笏湖周辺
2014年9月11日に道央地方を襲った豪雨は、国道をはじめとする社会インフラに甚大な被害を与えました。この豪雨は、近年の豪雨パターンの一つとして全国的に注目されている『線状降水帯』の形成によってもたらされたものです。図-1に示す雨量分布図には、北北東から南南西に伸びる降水帯の分布が明瞭に見て取れます。この豪雨により、北海道で初となる『大雨特別警報』が石狩・空知地方および胆振地方に発令されました。
図-1 雨量分布図(12時間積算雨量 気象庁)
この豪雨では、支笏湖周辺を通過する国道453号において、土石流による橋梁破損などの深刻な被害が発生したほか、支笏湖温泉の宿泊客など約90名が一時孤立する事態となりました。
図-2 降雨量の推移(アメダス『支笏湖畔』観測点)
この豪雨では、支笏湖周辺を通過する国道453号において、土石流による橋梁破損などの深刻な被害が発生したほか、支笏湖温泉の宿泊客など約90名が一時孤立する事態となりました。
図-3 札幌開発建設部からの感謝状
(2)国道232号 苫前町力昼
2014年7月31日から8月11日にかけて台風11号、12号が相次いで日本列島に接近し(図-4)、前線が日本付近に停滞しました。これに伴い日本各地で連日の大雨となり、土砂災害、浸水害、河川の氾濫などが多発し、大災害となりました。気象庁は、この災害をもたらした大雨を『平成26年8月豪雨』と命名しました。
図-4 台風の経路(左図:11号,右図:12号)
北海道においても、1時間雨量20ミリ、日雨量100ミリ前後の雨量(図-5)を記録した苫前町力昼地区において斜面崩壊が発生し、道北日本海側の大動脈である国道232号が通行止めとなりました。
図-5 降水量の推移(アメダス『羽幌』観測点)
この災害に対し、当協会は災害協定を活用した迅速な地質調査を行い、早期の災害復旧に大きく貢献しました。これらの対応が評価され、調査に当たった協会員企業2社が留萌開発建設部より感謝状をいただきました(図-6)。
図-6 感謝状授与を伝える新聞記事(2015.2.20北海道建設新聞)
2016年8月17日の台風7号の上陸を皮切りに、北海道にはわずか半月の間に4つの台風が上陸し、各地に甚大な被害を与えました。中でも8月30日に上陸した台風10号は、国道274号において千呂露橋の落橋や日勝峠周辺の50箇所を超える土砂崩れを引き起こしたほか、富良野町では空知川、新得町ではパンケシントク川、清水町ではペケレベツ川など大小の河川を氾濫させ、日高、十勝地方を中心に大災害をもたらしました。
この災害に対し、当協会は災害協定の活用により、要請日の当日~翌日から技術者を派遣するとともに、10台以上のボーリングマシンを投入するなど、会員企業7社が可能な限り速やかな対応を行いました(表-1、図-7)。これらの対応が評価され、当協会は北海道開発局より感謝状をいただきました(図-8)。
表-1 当協会の緊急対応
図-7 国道274号日勝峠付近における緊急ボーリング調査
図-8 北海道開発局より感謝状拝受
(1)地震の概要
2018年9月6日未明、北海道胆振地方を震源とするマグニチュード6.7の地震が発生し、震源に近い厚真町では震度7という、道内ではかつて経験したことのない地震動に見舞われました。気象庁は、この地震を『平成30年北海道胆振東部地震』と命名しました。
図-9 震度分布図(気象庁ホームページより)
この地震により、死者41人、負傷者749人、住宅全壊415棟(11月6日現在、消防庁)等の大きな被害が発生し、一時、最大1万6千人を超える住民が避難を余儀なくされました。
震源に近い厚真町、安平町、むかわ町では、一瞬にして広範囲にわたるおびただしい数の斜面崩壊が発生しました。斜面崩壊の総面積は、国内における明治以来の地震では最大で(図-11)、世界的にも例を見ないと言われています。また、震央に近い日高幌内川沿いでは、長さ1km弱に及ぶ大規模な岩盤崩壊も発生しました。この崩壊により河川が閉塞され「土砂ダム」が形成されたため、協会では後述する緊急調査を行いました。
図-10 地震によって発生した斜面崩壊
(写真中央は19名が亡くなった吉野地区)
図-11 過去の地震の規模と崩壊面積
(国土交通省砂防部ホームページより)
(2)当協会の対応
このような大災害に際し、災害の拡大を可能な限り防止し、社会インフラの一刻も早い復旧を図らなければなりません。当協会は、かねてより北海道開発局および北海道建設部と災害協定を締結しており、この地震に際しすみやかな対応を行いました。
9月6日 | 3時7分 地震発生 9時40分 協会事務局内に「地震災害対策本部」を設置 開発局(本局防災課)および北海道建設部に通知 |
9月10日 | 開発局より「協力要請書(日高幌内川)」受理 |
9月12日 | 北海道建設部より「協力依頼」受理 |
9月19日 | 開発局より「協力依頼」受理 |
9月29日 | 現地下見 |
10月4日 | 順次着工 |
※協会会員企業8社、ボーリングマシン11台を投入
北海道開発局から協力要請があった日高幌内川の岩盤崩壊は、厚真川の支流である日高幌内川を、合流点から4kmほど遡った右岸側に発生しました(図-12)。標高250mほどの山頂をもつ尾根が根元から分離し、ほぼ南に400m近く滑動しました。また、移動土塊の先端が日高幌別川を越えて左岸側の尾根先端に衝突したため、河川が完全に閉塞され土砂ダムが形成されました。
図-12 日高幌内川の岩盤崩壊(左図:崩壊前,右図:崩壊後)
国土地理院地図・空中写真を編集
調査は、余震の残る中で応急的に開かれた道路を通って行う過酷なものでしたが、何とか降雪前に予定の調査を完了することができました。現在は、我々の調査によって得られた地盤情報をもとに排水路が仮設され、恒久対策の設計・施工が進められているところです。
図-13 土砂ダムの湛水状況
図-14 重機による搬入
図-15 仮設状況
図-16 ボーリング作業
これらの対応が評価され、当協会は北海道開発局および北海道より感謝状をいただきました(図-17)。
図-17 北海道開発局および北海道より感謝状拝受
おわりに
地殻変動体に位置し地質構造が複雑かつ脆弱な我が国においては、災害はいつどこで起こってもおかしくありません。異常気象による気象条件の激化が進む今後はなおさらです。地質調査業に携わる技術者には、災害に対し地質調査を通じて社会インフラを守ってゆくという使命があります。当協会は、今後も地質調査の専門業者の団体として、万一の災害に備え、より強固な体制を築いてゆきます。